7/13/2006

PHILLY JAZZ 揃い踏み



おかげさまで大きな反響をいただいております「Philly Jazz」シリーズ、その最終章となるバイアード・ランカスターVSカーン・ジャマルのタッグによるコラボ・ユニット<Thunderbird Service>によるアルバム『Soul Unity』(ジャケ写中央)が遂に日本上陸。これでシリーズ全タイトルが揃い踏みとなりました。

今回新たにシリーズに加えられたこのThunderbird Serviceというユニットは、バイアード・ランカスターとカーン・ジャマルのふたりを中心に、ヴォーカルのジョー・クラドック、ピアノのAlfie Pollitt、パーカッションのKeno SpellerとBrett Andrew、そしてMen on a Missionという新人コーラス・カルテットを加えた9人編成のユニットです。

リズム・セクションを担うふたりのうち、Keno Spellerは60年代からバイアードと共に活動するヴェテランで、一方のBrett Andrewはフィラデルフィアのストリートからやってきた、これからの活躍が期待される若手です。

ピアニストのAlfie Pollittはノーマン・コナーズのバンドの一員としても活動していたフィリー出身のアーティストですが、80年代にはテディ・ペンダーグラスのアレンジャーもつとめるなど、ジャズだけでなくソウル・ミュージック全般にも深い造詣を持つ貴重な人物です。

ヴォーカル担当のジョー・クラドックという人物はバイアードとは40年来の知り合いで、共に1972年のリー・モーガンの葬儀の際にもプレイしたという間柄だそうです。

美しいハーモニィを奏でるゴスペル・カルテットのMen on a Mission。何と獄中で結成されたというこのユニット、しかもメンバーのひとりはいまだ刑期の途中だそうで、今回のレコーディングのため、6時間だけ特別に出所が許されたとのこと。

そんな素晴らしいサイド・メンバーたちに囲まれて渾身のパフォーマンスを披露するフィラデルフィア・ジャズの生ける伝説、バイアード・ランカスターとカーン・ジャマル。それぞれのソロ作(バイアードは上記の中でピンク色のジャケ、ジャマルは緑色のジャケ)も大変印象深いものでしたが、今回の共同作品における彼らの演奏は更に深みを増しており、ジャズやソウルの枠を超えて響き渡るスピリチュアルな普遍性のようなものを感じさせてくれます。

なお、このアルバムに収録されている「The Creator Has a Master plan」(ファラオ・サンダースのカバーですね)は別途12インチ・シングルとしてもリリースされていますので、興味のある方はそちらも是非。

ちなみに、この素晴らしいプロジェクトの仕掛人としてプロデューサーにクレジットされているのはAntoine Rajonという人物なのですが、彼はこのシリーズのリリース元である「Heavenly Sweetness」というレーベルのオーナーです。

Antoineは、実はこのレーベルを旗揚げする以前は「Isma'a」というレーベルでも働いていました。熱心なジャズ/レアグルーヴ好きの方なら覚えていらっしゃるかもしれませんが、この「Isma'a」は、ローランド・ブライヴァルというフレンチ・カリビアン・ミュージシャンのレア・アルバムを復刻して大きな話題を呼んだレーベルでした。復刻自体もよかったのですが、その後ローランドの新録音源もリリース、旧音源だけでなくヴェテランたちの「いま」にもスポットを当てる、その姿勢がまた賞賛を浴びたのでした。

過去のアーカイヴを掘り起こすというのも、モノによっては多くの困難を伴う骨の折れる作業となるわけですが、こういった「昔活躍していたアーティストの新録プロジェクト」というのは、通常リイシューよりもさらに難しいものになるのではないかと思います。というのも、どうしたってヴィンテージ音源のほうが多くのコレクターたちの興味を掻き立てますし、ミュージシャンたちも全盛期の「煌めき」のようなものは無いでしょうし…。

コレクターやレアグルーヴ的な部分との「接点」を保ちつつ、ミュージシャンたちのインスピレーションを最大限に引き出して、現在進行形の音楽としての鮮度や説得力も維持するというのは、並大抵のことではできません。この点で、Antoine Rajonという人物のプロデューサーとしての力量というのも、無視できないのではないかと、思ったりもします。Antoineにも、BIG SHOUT!

というわけで「Philly Jazz」シリーズ、どうか末永くご愛聴いただければと思います。

(K)